畠山直哉氏講演(11/2)「東日本大震災のリアリティ-陸前高田の風景から」報告
2013.11.15
2年半前に起こった東日本大震災は、TVなどのマスメディアなどから届く一方通行の情報が溢れかえったが、地理的距離のある関西では今では風化しつつある話題となった。あの震災の「リアリティ」が何だったのか、我々は当惑したままである。今回高名な写真家である畠山氏をお招きしたのは、津波で母親を失った彼が時間と距離を移動しながら体験した「震災」と、津波で壊滅した故郷陸前高田で撮影を続ける彼が今どう「震災」に向き合っているかを話してもらうためだった。 2011年秋、畠山氏は東京都写真美術館での個展「ナチュラル・ストーリーズ」で急遽、故郷の陸前高田で震災前に撮った写真をまとめた「気仙川」を発表している。今迄私的な写真を発表することのなかった写真家のこの作品群は、彼の世界各地で撮影されたシャープな代表作に混じって、見るものに静かな衝撃を与えた。講演会では、その後出版された写真集「気仙川」に自身が綴ったテキストを朗読したのだが、最後は声を詰まらせる一面を見せ、畠山氏が負った深い心の傷を垣間みたような気がした。写真家の30年のキャリアを揺るがした震災をとおして、畠山氏が経験した「当事者」意識や、目には見えない「リアリティ」の話は、アーティストの卵である学生に向けた多くのメッセージを残す内容であった。 成安造形大学准教授・写真家 津田 睦美