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未来社会デザイン共創機構

【SEIANドリームプロジェクト】令和4年度採択テーマ紹介④《不在の中の存在 −作為の痕跡》

2022.08.08

前回に続き、今年度SEIANドリームプロジェクトで支援する学生の研究テーマをご紹介します!

SEIANドリームプロジェクト概要はこちら

 

《不在の中の存在 −作為の痕跡》
美術領域4年 北村侑紀佳

芸術の社会的意義を問い直すことを目指し、“不在の中の存在”をテーマとする作品制作に取り組むのは美術領域4年生の北村侑紀佳さん。
北村さんは先日まで、本学キャンパスが美術館にて個展「そこにいない誰かとの対話、或いは」を開催されていました。
今回は展覧会の鑑賞と併せて、取り組む研究・制作内容、テーマへの思いなどを伺いました。

展覧会情報→ https://artcenter.seian.ac.jp/exhibition/5362/ (キャンパスが美術館WEBサイト)

 

●テーマ “不在の中の存在”

北村さんは大学入学以来“不在の中の存在”をテーマに、「痕跡」「気配」といったモチーフをさまざまな素材や技法を用いて表現しています。
以前からモチーフ自体への関心はありましたが、“不在の中の存在”というテーマに辿り着いたきっかけはSNS上で見た何気ない光景でした。
今やSNSは表現活動の1つのフィールドとなっており、誰でも気軽に発信ができ、さらに誰でもそれにリアクションすることができます。そんなやり取りを見ている中で、誰かが発信したイラストなどに自身を当てはめて楽しむ人が多いことに気づいたそう。特定の存在に対し、それぞれが違う存在を想像するのです。

北村さんは見た人の数だけの解釈がありそれらすべてが間違いではないのだと感じると同時に、私たちに今はそこにいない・見えない誰かを想像させる「痕跡」「気配」というモチーフを思い出しました。
例えば小さな足跡を見ると、私たちは自然と「子どもが歩いたのだろう」と想像します。それは見た人が思い思いに想像する子どもであり、その足跡をつけた本当の存在の性別や年齢まではわからない。そんなフラットな状態で生まれる存在のおもしろさに気が付いたそうです。
それ以来、北村さんは“不在の中の存在”をテーマに掲げ制作に取り組んでいます。

 

●計画 「作為の痕跡」シリーズの拡張

今回、北村さんがSEIANドリームプロジェクトの支援を受けて取り組むのは、主に「作為の痕跡」シリーズの拡張です。
本シリーズは今年に入ってから取り組んでいる写真作品です。

右:《また会えたなら》2022年制作
左:《祈るように信じている》2022年制作

先日の個展で発表されたこちらの作品は、“そこに誰かが寝ていた”という痕跡であるシーツの皺を元にしています。この写真に写る皺は、AIによって実際にはない皺が生み出されており、全てが本物ではありません。これこそが「作為の痕跡」です。

北村さんはたびたび制作にAIを用います。その理由を尋ねると「自分の身体を介さない表現に挑戦したいから」と言います。
これまで絵画作品に取り組んでいた北村さんは、自分の手で筆を取り、自分の意思で線を描く…それでは自分自身の痕跡になってしまうと、作品に対してもどかしさを感じていました。そんな思いから自分の身体に頼らない表現に挑戦するべく、自身では操作・意図しきれないAIを用い始めました。

「本来、痕跡とはある特定の個人によって形成されたものであり、気配はその結果に立ち現れるものである。そうした〈ある個人の存在によって不特定多数の個人の存在が想起される〉という矛盾を、自然にできるはずのインデックス(痕跡)を故意に作り上げるという二重の矛盾を通して再考する。
またそうした「存在しない痕跡」「誰のものでもない痕跡」では、本来的には特定の個人によって形成されるインデックスの対象が複数化・匿名化され、鑑賞者は作品の主体者となり得る。」
━コンセプトテキストより一部引用

“存在しない・誰のものでもない”痕跡。それは“正解がない”ということです。
AIによって作家の身体を介さない、実際には存在しない痕跡を生み出すことにより、鑑賞者がそれぞれ想像する“誰か”を肯定するのです。
「鑑賞者がそれぞれに思い浮かべる“誰か”はすべて肯定されるべき存在であり、そうした在り方を社会へ提示することが芸術にできることではないか」と北村さんは考えます。

今回の研究支援を受けて、北村さんはデータを出力して空間に存在させることに挑戦します。
作品があって、鑑賞者がいる。そんな展覧会という空間に見えない隔たりがあるように感じていたという北村さん。その隔たりをなくしたいという思いの実現や、難しいと言われることの多い抽象表現の拡張を目指し、作品を“体験する”感覚を提供する実験をおこないます。

シーツ以外にも足跡などモチーフとなる痕跡も研究中。視覚的なものだけでなくノックの音など、音声や映像などさまざまな媒体へと拡張し感覚にアプローチする作品・空間を目指します。

「これまでの作家活動の中で自分の作品を見てくれるのは元々美術への関心が強い人が多かった。これからはもっと大衆に影響を与えられるような、社会全体へ広げていける作品を作りたいです」とこれからの研究・制作活動に向けて意気込みを語ってくれました。

 

●個展「そこにいない誰かとの対話、或いは」展示風景


※ご紹介している計画やタイトルは現段階のものであり、今後の進行上一部変更になる可能性があります。

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